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2012年1月24日 (火)

システムを変えるということ

 私は大阪市民ではありませんが、生まれも育ちも大阪市ですし、大阪市がこれからどうなるのかは気になります。昨年の大阪府知事・大阪市長同時選挙は東京にいながら私なりに注視してきました。とはいってももっぱら、テレビや新聞、ネットでのニュースが情報源でした。

 このブログを読んでいただいている方はおわかりのことでしょうが、私は政治についてはあまり造詣が深くありません。ということもあり、メディアでの報道を追っても、橋下市長が主張していた「大阪都構想」は私にはよくわかりませんでした。というか、東京に住む私にとってはピンと来ないというのが正直なところでした。

 たぶん「都」にバイアスがかかっていたんですね。今はそれほどではないかもしれませんが、大阪人は東京への対抗意識があります。「都」という言葉が大阪人の誇りを刺激する部分があるのかな。そんなふうに考えていました。でも、なぜ大阪市を大阪府と統合させて、つまりは、大阪市を解消して大阪府を大阪都に変える必要があるのかはいまいちわからなかったのです。まず思ったことは、大阪市立大学はどうなるの?大阪市立総合医療センターってなくなのる?みたいなことで、政治に詳しい人からはレベルの低い話をしているなと思われるかもしれませんが、実際はそういう感じだったのですね。

 そんな私にとっては、橋下徹さんと堺屋太一さんの共著である『体制維新ー大阪都』(文春新書)はとてもわかりやすかったです。大雑把に言えば、大阪市は市としては大きすぎるということ。大きすぎるがゆえに、大阪府と似たような機能にならざるを得ない。また、大阪市は大阪府の経済の中心地であり、事実上、大阪府よりも大阪市の権限が強くなるということが起きてしまっている。逆に、大阪市内の区は東京都の特別区のような選挙で選ばれる区長がいるわけでもなく、区の人口が多い割には、区民のニーズにあわせたたきめ細かい行政がやりにくい。だから、大阪市を解体し、大阪市の区を特別区にして、きちんと「基礎自治体」として機能させなければならない。そういう趣旨がわかりやすく書かれていました。

 府庁と市役所を一つにする、と言うと、反対派の議員や学者が一斉に、「知事の独裁になるので危険だ」と批判しました。大阪府と大阪市を一つにして一人の指揮官にすればいい、と僕が言ったことが、市町村長などを全部なくすかのようにとられたようです。しかし、それは誤解です。
 大阪のすべての権限と財源を大阪都知事が把握するのではありません。そんなことは不可能です。住民とのフェイス・トゥ・フェイスの仕事は、市町村長や新設する特別自治区の区長に委ねられる。これが「やさしい基礎自治体」の役割。経済の成長戦略や雇用対策など大阪全体に関わる課題については、「強い広域自治体」の長として都知事が指揮する。効率的な役割分担をしようという話です。(P166)

 このところ話題になっている学者さんや評論家さんたちとの論戦ですが、正直に言えば、橋下市長を批判する側が的を外しているような気がしています。橋下さんがディベートが強いとか、そういう問題ではない気がするんですね。橋下さんがやろうとしていることは、「強い広域自治体」という意味では独裁という批判はかろうじて当たっている気はするけれど、むしろ、「やさしい基礎自治体」を増やすということなので、現在の行政システムは変える必要があるという立場に自らを置くならば、市町村が合併し一つになる時代に自治体を増やす方向性での改革には問題があるのではないか、という批判が本来はまっとうなのではないかと思います。

 もちろん、今の行政システムは変える必要がないという立場もあります。たぶん、橋下市長を批判するにあたっては、この立場を取るのが一番わかりやすいし説得力もあります。ただ、あまり支持を得られそうもなさそうですし、実際に誰もその立場を表明していないですよね。その立場を表明してくれれば、私にも理解できそうなのですが、そうじゃないですし、なんか、今は学者フルボッコと言われてますが、単純にかみ合っていないなあと思うんです。で、かみ合ってない中で、こういうわかりやすい本をきちんと出している時点で、橋下市長の言っていることの方が筋が通っていると思います。

 僕は、社会のシステムが根幹にあり、文明はそのシステムがアウトプットするものだと考えています。先ほどのパソコンの例で言えば、OSはシステムでソフトは文明です。
 使えるソフトはOSによって規定されてくるわけですよね。ですからソフトが大きく変わるためにはOSが変わらないといけないのですが、今の日本においてOSの変化は単なるバージョンアップでは駄目。DOSからウィンドウズになったような大転換が必要だと思うんです。
 DOSからウィンドウズに転換した途端に、素人でも扱えるようなソフトがどんどん出てきました。そしてコンピュータ社会、ネット社会といわれるようになりました。アウトプットされるものは常にシステムによって規定を受けます。だからアウトプットをいまの時代、いまの状況に合わせるためには、根幹のシステムを変えなければならないと思っているのです。(P40)

 このくだりは、私にはたいへん理解しやすかったです。OSのバージョンアップではなく、根本的に作り直そうとするわけですから、橋下市長がよく言う「権力闘争」もわからなくもないし、比較的マルクスに親しみのありそうな反橋下市長派の方々も、つまりは「上部構造は下部構造が規定する」ということなので、理解しやすいと思うんですけどね。でも、橋下市長(この本の時点では橋下知事でしたが)は、こうも言っています。

 僕はよくゲームにたとえるんです。子どもたちは、ゲームのいろんなソフトについて友達同士でしゃべります。 おもしろい隠れキャラクターがあるとか、攻略法などを朝から晩まで喋っている。
 だけど、そのゲームを動かすニンテンドーDSや、PSPなどのハードの仕組みについて、じつはこれがアメリカ軍の機密にもなるようなチップが入っているとか、集積回路はどういう配置になっているとか、日本のこんな最先端技術が使われているとかという話はしませんよね。おもしろくもなんともないですから。(P36)

 なので、専門家を除いては一般ユーザーには伝わりにくい、と。確かに、この話はあまりニュースではでてきません。だらかなのかどうかは知りませんが、あまりこのシステムの変え方についての批判や反論がでてきません。でも、私がいちばん聞きたいのは、そこなんですが。

 私は、仕事柄、Mac OSを使ってきたからMacの話をします。2001年に、OS 9からOS Xに変わりました。BSD UNIXをベースにまったく新しく作り直されています。互換性はありません。OS 9はそれなりに高性能なOSでしたので、かなり大胆な試みだったと思います。OS 9で動いていたイラストレーターやフォトショップ、MS Officeなんかもまったく動きません。これは、ユーザーにかなりの負担を強いることだったのだと思います。これによってMacユーザーを辞めた人もいるかもしれません。

 けれども、今考えると、OS Xがなければ、きっとiPhoneもiPadもなかったんだろうと思います。今の状況を考えれば、それはやらなければならないイノベーションだったのだろうと思うんですね。しかも、方向性も間違っていなかった。

 もうひとつ、思い出すことがあります。私は広告制作を生業としていますが、OS Xができても、デザイナーはもとより業界全体がOS 9を数年にわたって使い続けました。クオークエクスプレスをはじめとするソフトが対応していない、もしくは高価で変える余裕がない。現状でもクオリティはそれほど変わらない。印刷が対応していない。OS Xではソフトが不安定。そんな理由だったと思います。一頃、OS 9が入っている中古Macの需要がかなりあったと聞きます。

 システムを変えること。それは、かなりのリスクを伴うことです。方向性を間違えれば取り返しがつきません。Mac OSであれば、市場から淘汰されるだけですが、行政の場合はとんでもないことになります。慎重になりすぎても悪いことはひとつもないと思います。また、行政の場合、一度変わったら、かつての広告制作界隈のように、それでもOS 9を使い続けるという選択はもはやできないわけですし。

 今月の27日、テレビ朝日の朝まで生テレビは「激論!“独裁者”橋下市長が日本を救う?!(仮)」というテーマだそうです。大阪市民、大阪府民は、選挙で変える方を選んだわけだから、どうシステムを変えるべきなのか、その具体的な方法と是非についてきちんと話してもらえないかなと思います。私は、そのことが聞きたいです。学者さんの批判も代案も聞きたいし、おもしろくともなんともないにしても、システムが変わればどうなるのかを、メリットやリスクも含めて橋下市長もきちんと語ってほしいです。できれば、考えられるリスクを最小化する方策も。もちろん、システムを変えるべきではない、という意見も聞きたいです。あまり一般受けはしなさそうですが、そういう考え方もありだと思っています。

 こういうテーマなら、言葉の正しい意味で、ちゃんとしたディベートになると思うんですけどねえ。

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