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2012年2月11日 (土)

すっぴんうどん

 近くのおいしいパン屋さんでクロワッサンを買って、うまいなあ、サンドイッチもいいけど、やっぱりパンのうまさはパンのうまさだよねえ、パスタも塩こしょうとバターのがうまいし、うどんそばも盛りがうまいよなあ、うん、海原雄山の言う通り、なんて朝から悦に入ってたら、なんか昔のことを思い出しました。

 その昔、コピーライター養成講座に通っていたことがあるんですね。CIプランナーの見習いをやっていた頃で、もちろん自分の希望でもあったんだけど、その頃、会社が人員削減とかで人手が足らなくなってきていたりして、コピーライターの見習いを兼務していたんですね。とりあえず見よう見まねでやってはいるけど、これじゃ駄目かなと思って通い出したんです。確か、宣伝会議が倒産して、まだ再建できていない間の頃で、一時的に久保田宣伝研究所コピーライター養成講座という名前だったと思います。

 で、その講座で、こんな課題が出たんです。

 「あるうどん屋さんがあります。そのうどん屋さんは、素うどんがあまり売れていません。素うどんがもっと売れるような広告案をつくりなさい。」

 聞いた直後に、素うどんが売れてなくても、天ぷらうどんや鍋焼きうどんが売れてるんだったらいいんじゃないかなあ、そのほうが利益率もきっと高いし、とは思ったんですね。今思えば、素直じゃない生徒だったなあと思いますが、それまでの授業は、RTB(Reason to believe)的なことについてだったから、出題の意図は、広告っていうのはイメージだけじゃ駄目なんだよ、ちゃんと消費者に信じられる理由を提示できなきゃいけないんだよってことだったんだろうとは思います。

 出題者が意図する正解は、職人さんの写真が出ていて「うどん作り一筋、五十年。職人が心を込めてつくっています。まずは素うどんでこそ味わってほしいうどんです。」的なこととか、小麦畑の写真で「国産小麦100%。この味、このコシ、この香り。私たちのうどんは、まず素うどんが違います。」的なことですね。

 でも、その頃の私は、今よりももっと空気が読めない奴だったので、あえて素うどんを売りたいのかあ、なんでだろ、でもまあ、きっとちゃんとした理由があるんだろう、でも、素うどんを売りたいと思ってるのに、自らが、具の乗っていないうどんを素うどんと呼んでいて売れるわけはないよなあ、素うどんって、お金ないときに食べるっていうイメージがついてるし、まずは、素うどんという言葉が持っているコンテキストを変えることが必要じゃないのかな、なんて考えたわけです。

 で、出した回答。

 素顔の女の子の写真に、正確なのは忘れちゃったけど「でも、やっぱり素顔の君がいちばん好き。」みたいなキャッチコピーで、下に素うどんの写真とともにでっかい文字で「すっぴんうどん 280円」ってつけたんですね。まあ、写真とキャッチはお客さんが男性だけじゃないってこととか、コピーが若気の至りっぽいこととか、ちょっとうどんの世界と距離があって伝わる速度が遅いこととか、そのデメリットも十分に検討しないといけないと思うのでご愛嬌なんですが、要は、素うどんを売りたいということなら、「素うどん」っていうコンテキストから「すっぴんうどん」っていうコンテキストに変えませんかっていう提案だったわけですね。

 その講義では生徒がつくった広告案が張り出されて、生徒がどれがいちばんよかったかを投票するわけです。で、人気が一番だったのは私の解答だったんですね。それは、信じられる理由をていねいに提示する比較的地味な広告案がずらっと並ぶ中で、私の広告案が目立つってこともあったんだろうと思いますが、とたんに、講師の方が困った顔になったんですね。その顔を見たとき、当時の私はようやく気付くんですね。

 あっ、この問題で言いたかったことはそういうことか。まずったなあ。

 その後、人気投票の結果は見事にスルーで「すっぴんうどん」はなかったように講義は進んでいきました。あの気まずい感じ。いまだに思い出すってことは、当時の私にとっては相当堪えた出来事だったんだろうなあ。

 でも、あれから20年以上経って、コンテキスト、コンテキスト言ってるわけだから、まあ、あのコピー講座は通ってよかったんだでしょうね。自腹で、そのうえ中退しちゃったけど。

 ちなみに、こういうコンテキストに変えてうまくいったのは、はなまるうどんとかの讃岐系チェーンだと思います。かけを基本に、好みで具を追加していく讃岐ならではのやり方は、なによりもまず、売りたいのはうどんそのもののうまさなんだっていうコンテキストをつくりましたよね。

 何よりもうどんがうまい。そのうえでの、天ぷらであり、コロッケなんだ、みたいな。はなまるうどんを見ていると、そのあたりうまくやってるなあと思います。讃岐うどんのシステムはもちろん、屋号は「はなまる」だけど、コミュニケーションでことあるごとに「はなまるうどん」にしているところとか、かけをお試し価格で提供しているところとか、そのぜんぶがあわさって、うちが売りたいのはうどんそのものなんです、っていうメッセージになっているんですよね。

 若かった当時の私にちょっと言いたいのは、素うどんを売りたいという課題だから「すっぴんうどん」はまあいいけど、ほんとにコンテキストを変えようと思うなら、その下の部分に、「あわせてどうぞ。かきあげ 100円 えびの天ぷら 150円 きすの天ぷら 150円」みたいなことを書いておくべきでしたね、残念でした、みたいなことですかね。

 では、みなさまよい休日を。今日のお昼はうどんにするかなあ。

関連エントリ:本質価値と付加価値についての覚え書き

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コメント

こんばんは。

先生、悔しかったんじゃないですか。
私は、昔はうどんとそばなら、絶対うどんでしたが、今はそばです。理由は、体に良さそうだから。全然嫌いじゃないのにうどん食べないです。素うどん280円は高くないですか?だから売れないんじゃないですか・・?

今年の夏「グスコーブドリの伝記」(杉井ギサブロー監督・ますむらひろしさん)が公開されるそうです。最近、知りました。
また、このコンビで観れるなんて、全く思っていなかったので驚きました。凄く嬉しい!
七夕の日に公開みたいです。

投稿: オリーヴ | 2012年2月11日 (土) 20:11

こんばんは。

いやいや、こいつ何言うとんねん、って感じだったのではないでしょうかねえ。私は、東京ではそば、大阪ではうどんですね。確かに、280円は立ち食いでは高いし、お店だと安いし、微妙ですね。

音楽はもしかして細野さんですかね。ちょっと期待できそう。七夕の日、楽しみですね。

投稿: mb101bold | 2012年2月11日 (土) 21:35

すいません。
少し気になったので。

「つぶやき」・・の話とかも読ませて頂いたのですが、どうしてこんな風に書けるのかなと・・。頭の中が違うと言えばもちろんそうなのですが。
サイトで大島弓子さんのところをいろいろ見ていて、私が何といったらいいか分からない感じを、凄くぴったりの言葉で書いてあったりして、何でこんな風に書けるんだろうと、本当に羨ましいなと。
もともと読書が苦手で、読書感想文は本当に困りました。だから言葉が出てこないと言うのもあると思う。

すっぴんうどんのコメントに、「先生、悔しかった・・」とか書いてしまいましたが、先生見たら気分悪いですよね。悪気はないです。これは言葉知らないとは別ですね。
急に気になったので・・失礼いたしました。

投稿: オリーヴ | 2012年2月19日 (日) 23:38

いえいえ大丈夫ですよ。あまり気にしすぎると何も書けなくなっちゃいますものねえ。それに、ほんとは悔しかったかもしれないですし。

投稿: mb101bold | 2012年2月27日 (月) 14:34

ありがとうございました。

小心者なので。
言いたい事は、いろいろあったりするんですけど。

新しい100円ショップが出来て、この前行ってみたのですが、店の中を見ていたら、目の前につまようじがありました。なんか、びっくりしてしまいました。同時に、あるじゃん、と思いました。
450本入2個セットと850本入の大きいサイズで、こちらは中国製です。どうしても日本製がいいというなら、若干本数が少ないですが、パステル色のケースに入った物もありました。もちろんバラです。どれがいいですか?(笑)

雪、凄いですね。東京とは思えない。こちらは、雨も止みました。

投稿: | 2012年2月29日 (水) 12:19

2個セットがいいです(笑)

投稿: mb101bold | 2012年3月 9日 (金) 23:52

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