感覚的に言えば、ラジオの人気番組の影響力は地上波テレビの不人気番組の影響力とほぼ同じである
興味深い記事がネットに出ていた。当該記事はフジテレビの不調を揶揄するゴシップ記事ではあるけれど、別の見方をすれば今のラジオのメディアパワーを感覚的に把握する上で、非常に示唆的な記事として読むことができる。
打開策が見えないまま夏休みシーズンに突入するフジテレビだが、苦戦の影響に『ミヤネ屋』だけでなく、ある番組の名前が上がっているという。「それが、大竹まことさんの『ゴールデンラジオ!』(文化放送)です。毎週、平日の13時から15時半まで放送しています。放送時間がほとんど同じこの番組は、同時間帯の関東のラジオ局で一番聴取率がいいんです。テレビとラジオで簡単に比較はできませんが、少なからず影響があると上層部は判断しているようです」(番組スタッフ)
視聴率1.1%の『グッディ!』ライバルは『ミヤネ屋』ではなく『ゴールデンラジオ!』だった!? - 日刊サイゾー(2015.07.21)
本文には「テレビとラジオで簡単に比較はできませんが」とあるが、じつはテレビの視聴率の母数はテレビを見ている世帯ではなく調査対象世帯全体であり、ラジオの聴取率の母数は調査エリアに在住の男女12~69才の個人総数であり、その誤差を捨象して考えれば、テレビの視聴率とラジオの聴取率は比較可能。むしろ、ラジオの母数が個人総数であることから、母数がより大きい分、同じ1%でも人数は多いとも考えられる。ただ、ラジオの場合は、年6回の聴取率調査の時期と合わせて各局がスペシャルウィークと称して特別企画を実施するので、ラジオの数字は実際は少し盛られているとは言える。また、テレビは世帯なので、1カウントでも複数人が観ている可能性も高い。なので、いろいろ総合的に判断して、ざっくりと考えれば、テレビの1%とラジオの1%はほぼ同じと考えていいと思う。
日刊サイゾーの記事にあるフジテレビ『グッデイ!』の1.1%は、関東広域圏で聴取率首位のTBSラジオの聴取率とほぼ同じ。関東広域圏のラジオ全体が約6%で、その中でラジオの第2のプライムタイム(第1のプライムタイムは朝時間帯)である昼時間帯で最も聴取率がいい番組である文化放送『ゴールデンラジオ』は、軽くフジテレビ『グッデイ!』を超えていると考えられる。これは、別に時代の変化ではなく、一般的に朝や昼時間はテレビよりラジオの方が強い傾向にあって、この記事が煽るようなことでもない。
ここから見えてくるのは、今、ラジオのメディアパワーは、感覚的に言えば、時間帯を含めてあまり見られていない地上波テレビの低視聴率番組くらいはあるということだ。もっとわかりやすく言えば、ラジオの聴取率1%は、関東広域圏で言えば単純計算でおおよそ36万人であり、ラジオの人気番組は、この1%、つまり36万人をベースに前後した数字と考えるのが妥当。この数字から、ながら聴取や飲食店やタクシーでの聴き流しを考慮して、熱心に聴取しているリスナーを3分の1とかなり低く見積もっても10万人であり、しかも放送メディアであるラジオは、この数字は瞬間の数字ではあるので、ウェブメディアを含めたあらゆるメディアの中で、ラジオ離れが叫ばれる現状においてもなお、このくらいの影響力を持つメディアである、ということは実感できると思う。
メディアは、自分が接しているメディアが世界のすべてだと考えてしまいがちであり、その中での好き嫌いや希望的観測で未来を語りがちになる。メディアに限らず、現実は現実として理解しておくことは大切。ラジオにかぎらず、メディアを考える際には、こういう実際の力を感覚的に知っておくことは大切だと思う。
ちなみに、このエントリでは関東広域圏のローカル番組をベースにしていて、全国ネット番組では影響力はさらに上がる。また、地域によってラジオの影響力は若干違う。例えば、聴取率調査を実施している関西圏や北海道圏では、関東広域圏より少しラジオの聴取率は高い。つまり、少しだけラジオ人気が高い。
さらにラジオメディアを考える際に重要なのは、地域によって市場がまったく異なるという点だ。地上波テレビも同様ではあるが、その地域格差はテレビ以上であり、例を挙げると、東京都がAM、FMの民放ラジオ局が約10局に対して、広島県は2局と、聴取できる放送局の数にはかなりの開きがある。また、地理的条件による違いもある、関東近辺の地方だと東京キー局が聴こえるので地元局はかなり厳しい競争を強いられていたりするが、先に挙げた広島県のように地理的条件により巨大都市圏の影響を受けない地方では、民放がAM、FMそれぞれ1局しかリスナーに選択肢がないケースもあり、そういう地域では独占に近い市場の中で日々の放送が行われている。
ここでは触れなかったコミュニティFMでも、J-WAVEなどの在京局番組の再送信の割合が多い局は、地域の選択可能なラジオ局の中でもそれなりの存在感を示していて、各地域の市場はもっと複雑になる。メディアとしてのラジオを語るとき、このような地域差があり、一言で「ラジオとは」と語れない難しさがあると思う。
そういう地域差がある一方で、ラジオメディア全体を見ると、IPストリーミング技術を使ったradikoの有料版であるradikoプレミアムの登場で、月々350円で全国のほぼすべての地上波ラジオが全国どこでもリアルタイムで聴ける環境ができている。これは、テレビ放送がこういうメディア環境になっても実現できないことをラジオが一足先に実現してしまっているということであり、ここにじつは放送メディアとしてのラジオの先進性があったりもする。このあたりのことは、また別の機会に。
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告知です。私も所属している放送批評懇談会のラジオ委員からイベントのお知らせがあります。ラジオ部門<ギャラクシー賞入賞作品を聴いて、語り合う会Vol.19>が、2015年7月26日(日)午後1時~午後5時、赤坂TBSセミナー室で行われます。今回は「花は咲けども~ある農村フォークグループの40年~」山形放送(大賞)と「風の男 BUZAEMON」南海放送(優秀賞)の2作品です。下記リンクのページにある申し込みの締め切りは過ぎていますが、事務局によると、申し込み多数で席数を増やしたのでまだ若干の余裕があるので申し込みは大丈夫とのことです。有料イベントですが、興味のある方はどうぞ。
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