大阪ダブル選雑感
2015年の大阪市住民投票後に「大大阪と大阪都」という記事を書いたこともあるので、今回の大阪府知事、大阪市長のダブル選挙の結果について僕が感じたことをこのブログに残しておきたいと思った。
結果は大阪維新の圧勝、大阪自民、立憲民主、共産などが共闘を組んだ反維新陣営は惨敗だった。
僕は大阪都構想については大大阪幻想を喚起する「大阪都」というレトリックを軸に、そのレトリックが大阪府民、大阪市民にどう受容されてきたかという切り口で見てきた。住民投票の際には大阪にいたので各陣営の街頭演説を回ったり、在阪民放各局の報道のされ方をチェックしたり、かなりその空気感については理解をしていたつもりではある。一方で、今回、選挙期間中はずっと東京にいて、その空気感がいまいちわからない部分があり、結果を見て、「ああなるほど、そういうことだったのだな」と事後的に理解した部分が大きい。
「大阪都」というレトリックについては、今回のダブル選ではほぼその賞味期限が切れている状態だったと言っていいと思う。便宜上、大阪都構想という名称で語られているが、現状、大阪府が大阪都、つまり国家の承認付きの副首都を目指す構想であると理解する有権者は少ないだろう。つまり、住民投票とダブル選の大きな違いは、大阪都というレトリックの有無にある。
今回のダブル選については大阪市を大阪府の特別区に移行させることで二重行政を解消し、都市成長のための意思決定のプロセスをシンプルにするという大阪都構想の内実が問われたと言っていい。その内実に関しては、有権者はとりあえず現段階ではGOという意思を示した。今回はレトリックが喚起する大大阪幻想ではなく、内実が問われたという意味において、この圧倒的な結果は大きな意味を持つだろうと思う。
反都構想陣営の転機は大阪自民が辰巳琢郎氏の擁立を計画し頓挫した時だっただろうと思う。もし出馬していたなら結果は変わっていたかもしれない。その場合、未知なもの、つまりまだ何かはわからないが何か新しいものにとりあえずは賭けてみるという投票行動になったはずだ。東京の小池フィーバーのようなものであるが、このシナリオはあまり良くないものだと考えている。
それは、「大阪都」同様、何かわからないが何か新しいものが起こるという、ありもしない幻想を生み出す「辰巳琢郎」というレトリックに大都市の命運をまかせることになってしまうからだ。辰巳琢郎氏が出馬を見合わせるという判断をしたことは、結果として大阪にとっては幸運だったと思う。
大阪自民は市長選に柳本氏を擁立した時点で、何か新しいものを喚起する「辰巳琢郎」というレトリックの内実を急ごしらえでもなんでもとにかく固めるこということができなかった。柳本氏も在阪テレビ局も「大阪都構想の中身が府民、市民の方にまだよく知られていない」という言い方をしていたが、そんなわけないだろうと個人的には思っていた。テレビカメラを向けられたら「ようわかりませんわ」と答える人は多いだろう。これは、市場調査でよく言われるインスタントラーメンパラドクスに近いものだと思う。低カロリーを売りにした新商品ラーメンについて尋ねると多くの人は「ヘルシーでいいですね」と言うが、実際はさっぱり売れない。人は人前では良い格好をしたいものなのだ。逆説的ではあるが「ようわかりませんわ」というのは自身の知識不足を外にさらさない究極の良い格好と言える。
大阪自民が柳本氏を擁立した時点で、柳本氏には「大阪市がなくなっていいんですか」という住民投票でアピールした賞味期限切れの煽りしか残されていなかった。これはたぶん本人も自覚していたはずだ。国政に進出しようと目論んでいたとのことだが、その進路を断って大阪自民のために出馬を決断したことについては大人として立派だと思うが、その分、今回の結果は不憫だなとも思う。会見で「政治生命が息絶えた」と述べていた。精一杯戦って敗れたという無念さとは別の意味で無念だろう。
大阪維新については、本来は批判されがちな知事・市長入れ替えという奇策が、逆に、大阪都構想の内実の一つである二重行政の解消という戦略と強く結びついているために、奇抜な行為そのものが二重行政解消に賭ける強固な意志を示すメッセージとして機能した。
最後に、このあたりの話は大阪に関係がない他の都道府県の人には理解しにくいだろうと思う。どうしても国政の構図を反映させたミニチュア国政として理解しがちだし、その政治党派の構図で理解しがちだろうと思う。実際、東京はイメージや内実ともに日本の第二政府的な展開になりがちではあるし。でも、大阪も他の都道府県もそうではない。そこには、その土地に住む人だけが感じる別の構図が存在している。そこがウェブでどこにいても情報は手に入れられる時代になってもなお残る難しさだと思う。
東京にいながら在阪テレビ局の選挙特番(朝日放送+朝日新聞大阪本社「徹底解説! 大阪ダブル選~開票ライブやりまっせ!」)の生放送をネットで観ていて、その思いをより強くした。ノーカット版がYouTubeにある。大阪ダブル選に興味のある方は視聴をお薦めする。
追記:重要なキーワードになる大大阪について書きました。「大大阪について」
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