カテゴリー「食べものの話」の19件の記事

2019年9月14日 (土)

オムレツの謎

 ウェブで『「今残さないと、調理文化が消える」 食研究家たちが支持するレシピ本、危機感から制作』という記事を読み、その関連で、なんとなく食べ物のことを考えていて、ふと、昔、母がつくってくれたオムレツのことを思い出し、

僕の母は甘く煮た牛肉そぼろが中に入ったオムレツをよく作ってくれて、20歳くらいまではオムレツは中に肉そぼろが入ったものと思い込んでいたけど、それは国が進めていた栄養運動の中の推奨レシピだったということを最近知った。

 と、Twitterでつぶやいた。すると、珍しくいいねやリツイートが付き始めて、ああ、みんなもこの牛肉そぼろオムレツを食べていたんだよなあ、思い出でつながるTwitterっていいよなあ、なんて思っていたけど、徐々に、さて、どこで知ったんだろうと気になりだして、検索したりしてみるも手がかりが見つからず、まあええか、寝るか、と布団に入った瞬間に「あっ、朝の料理番組で土井善晴先生が言うてはったわ」と記憶のカケラが見つかって、さっそくググってみたら、あった。

 土井先生は「昭和オムレツ」と名付けておられた。テレビ朝日『おかずのクッキング』2018年3月第5週放送回で、土井先生が「昔ね、みんなに栄養のあるもんを食べさそうと、フライパン運動というのがあったんですわ。洋食とか中華とかイタリアンとか。そういうもんを子供のためにつくりなさいよというわけです。その中のレシピにこれがあってね、流行ったんでしょうね。僕らにとっては懐かしい味やね」的なことを語っておられたと思う。動画は見つからなかったけど、記憶ではそんな感じ。

 で、その運動はいかなるものなのか、とさらに調べてみると、

1956年に厚生省の指導のもと日本食生活協会は「栄養指導車」8台を導入。10月10日日比谷公園で盛大な出発式を挙げる。世の言うフライパン運動の始まりである

日本人の粉モン好きの陰に潜むフライパン運動とは?/パンケーキ総研』より引用 

 1954年7月にアメリカで成立したPL480法に関連した運動だったとのこと。この法律は正式名称は農業貿易促進援助法ではあるけれど、余剰農産物処理法とも呼ばれ、最も有望な市場と見られた日本がその標的にされた。つまり、半ば押し付けられた米国産の余剰農産物の解決と米国農産物輸出拡大のためのマーケティング戦略の一環でもあったということだった。

 ま、それだけでなく、当時の厚生省にも、このPL480法を契機にして、和食中心から洋食の普及により栄養に偏りのある食生活を変えたいということもあったのだろうし、そのおかげで今の多様で豊かな食生活もあるわけだから、マーケティング戦略は大成功と言えるだろうけど、でもまあ引用のブログにあるように「米主食では栄養不良になる」という根拠の薄いネガティブキャンペーンもあったらしく、関連書を見ると日本固有の食文化の破壊という観点からの批判が多いようだ。

 僕の母が、このフライパン運動のキッチンカーで学んだのか、それともこの運動によって普及したレシピを見てつくったのかは、もう知るすべはないけれど、土井先生が「昭和オムレツ」と名付けた牛そぼろ入オムレツは、僕らの世代の多くの人にとって懐かしい味になった。

 2014年に父が亡くなり、続いて2015年に入院していた母も亡くなった。そう言えばと、大阪滞在中に見様見真似で作ってみたら美味しかった。大阪に住む妹は「いっしょの味やん。おいしいわ。なんで作れるの?お母さんに教えてもうたん?」と言っていたけど、誰でも作ることができる簡単なレシピだから、まあ、誰が作ってもこんな味にはなるのではないかな。米主食の習慣を変えようというキャンペーンから生まれたメニューだけど、このオムレツはごはんによく合う。

  *     *

 本を書きました。『超広告批評 広告がこれからも生き延びるために』という本です。詳しい内容はこちらにあります。

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2012年2月11日 (土)

すっぴんうどん

 近くのおいしいパン屋さんでクロワッサンを買って、うまいなあ、サンドイッチもいいけど、やっぱりパンのうまさはパンのうまさだよねえ、パスタも塩こしょうとバターのがうまいし、うどんそばも盛りがうまいよなあ、うん、海原雄山の言う通り、なんて朝から悦に入ってたら、なんか昔のことを思い出しました。

 その昔、コピーライター養成講座に通っていたことがあるんですね。CIプランナーの見習いをやっていた頃で、もちろん自分の希望でもあったんだけど、その頃、会社が人員削減とかで人手が足らなくなってきていたりして、コピーライターの見習いを兼務していたんですね。とりあえず見よう見まねでやってはいるけど、これじゃ駄目かなと思って通い出したんです。確か、宣伝会議が倒産して、まだ再建できていない間の頃で、一時的に久保田宣伝研究所コピーライター養成講座という名前だったと思います。

 で、その講座で、こんな課題が出たんです。

 「あるうどん屋さんがあります。そのうどん屋さんは、素うどんがあまり売れていません。素うどんがもっと売れるような広告案をつくりなさい。」

 聞いた直後に、素うどんが売れてなくても、天ぷらうどんや鍋焼きうどんが売れてるんだったらいいんじゃないかなあ、そのほうが利益率もきっと高いし、とは思ったんですね。今思えば、素直じゃない生徒だったなあと思いますが、それまでの授業は、RTB(Reason to believe)的なことについてだったから、出題の意図は、広告っていうのはイメージだけじゃ駄目なんだよ、ちゃんと消費者に信じられる理由を提示できなきゃいけないんだよってことだったんだろうとは思います。

 出題者が意図する正解は、職人さんの写真が出ていて「うどん作り一筋、五十年。職人が心を込めてつくっています。まずは素うどんでこそ味わってほしいうどんです。」的なこととか、小麦畑の写真で「国産小麦100%。この味、このコシ、この香り。私たちのうどんは、まず素うどんが違います。」的なことですね。

 でも、その頃の私は、今よりももっと空気が読めない奴だったので、あえて素うどんを売りたいのかあ、なんでだろ、でもまあ、きっとちゃんとした理由があるんだろう、でも、素うどんを売りたいと思ってるのに、自らが、具の乗っていないうどんを素うどんと呼んでいて売れるわけはないよなあ、素うどんって、お金ないときに食べるっていうイメージがついてるし、まずは、素うどんという言葉が持っているコンテキストを変えることが必要じゃないのかな、なんて考えたわけです。

 で、出した回答。

 素顔の女の子の写真に、正確なのは忘れちゃったけど「でも、やっぱり素顔の君がいちばん好き。」みたいなキャッチコピーで、下に素うどんの写真とともにでっかい文字で「すっぴんうどん 280円」ってつけたんですね。まあ、写真とキャッチはお客さんが男性だけじゃないってこととか、コピーが若気の至りっぽいこととか、ちょっとうどんの世界と距離があって伝わる速度が遅いこととか、そのデメリットも十分に検討しないといけないと思うのでご愛嬌なんですが、要は、素うどんを売りたいということなら、「素うどん」っていうコンテキストから「すっぴんうどん」っていうコンテキストに変えませんかっていう提案だったわけですね。

 その講義では生徒がつくった広告案が張り出されて、生徒がどれがいちばんよかったかを投票するわけです。で、人気が一番だったのは私の解答だったんですね。それは、信じられる理由をていねいに提示する比較的地味な広告案がずらっと並ぶ中で、私の広告案が目立つってこともあったんだろうと思いますが、とたんに、講師の方が困った顔になったんですね。その顔を見たとき、当時の私はようやく気付くんですね。

 あっ、この問題で言いたかったことはそういうことか。まずったなあ。

 その後、人気投票の結果は見事にスルーで「すっぴんうどん」はなかったように講義は進んでいきました。あの気まずい感じ。いまだに思い出すってことは、当時の私にとっては相当堪えた出来事だったんだろうなあ。

 でも、あれから20年以上経って、コンテキスト、コンテキスト言ってるわけだから、まあ、あのコピー講座は通ってよかったんだでしょうね。自腹で、そのうえ中退しちゃったけど。

 ちなみに、こういうコンテキストに変えてうまくいったのは、はなまるうどんとかの讃岐系チェーンだと思います。かけを基本に、好みで具を追加していく讃岐ならではのやり方は、なによりもまず、売りたいのはうどんそのもののうまさなんだっていうコンテキストをつくりましたよね。

 何よりもうどんがうまい。そのうえでの、天ぷらであり、コロッケなんだ、みたいな。はなまるうどんを見ていると、そのあたりうまくやってるなあと思います。讃岐うどんのシステムはもちろん、屋号は「はなまる」だけど、コミュニケーションでことあるごとに「はなまるうどん」にしているところとか、かけをお試し価格で提供しているところとか、そのぜんぶがあわさって、うちが売りたいのはうどんそのものなんです、っていうメッセージになっているんですよね。

 若かった当時の私にちょっと言いたいのは、素うどんを売りたいという課題だから「すっぴんうどん」はまあいいけど、ほんとにコンテキストを変えようと思うなら、その下の部分に、「あわせてどうぞ。かきあげ 100円 えびの天ぷら 150円 きすの天ぷら 150円」みたいなことを書いておくべきでしたね、残念でした、みたいなことですかね。

 では、みなさまよい休日を。今日のお昼はうどんにするかなあ。

関連エントリ:本質価値と付加価値についての覚え書き

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2012年1月29日 (日)

おそばの話

 ひさしぶりにとある立ち食いそばのチェーン店に立ち寄ったら、ありゃまあ、おそばがうまなったなあ、と。テーブルに置いてある小さなPOPを見てみると、挽きぐるみの石臼挽きになったとのこと。なるほど、確かに香りが違うね、と言えるほどおそばに詳しくはないのですが、でも、あの値段でこの味はコスパ高いよなあ。はい。そうです。コスパって言いたかっただけです。

 私は大阪生まれで、高校まで大阪で過ごしましたので、あまりおそばには親しみがありませんでした。大阪では、立ち食いそばではなく立ち食いうどんと暖簾に書いてあります。もちろんおそばもありますが、あくまでうどん屋なんですよね。

 はじめて東京でそばを食べたのは、大学受験の時でした。新宿で、お腹がすいたし何か食べたいなあと思って、地下街をうろうろしてたら、立ち食いそばのお店がありました。食券機を見ると、天ぷら付きの盛りそばが500円。えっ、えらい高いなあ、と思ったけど、まあいいや、と食べてみると、うわっ、これは。そのお店、とある老舗そば屋さんの出店だったんですね。

 「なんだこれ、ラーメンみたい。」

 今思うと、かなりはずかしいですが、食べて最初に思ったのがこれ。角が立ってて、コシがあって、なんというか、大阪で食べてきたおそばとまったくちがうのです。大阪のおそばって、基本、うどんが飽きたときのものだから、って言い切るのはあれかもですが、まあ、当時はそうでしたから、って言い切るのもどうかと思うけど、まあ、あれです、今でもたいがいのお店では、おそばは色が濃くて細いうどんみたいな感じなのです。

 東京の人はおそばを大事にしますよね。私も、そば好きの人に連れられて、老舗の名店に何度か行ったことがあります。中には、ただの盛りなのに、この値段、サーロインステーキが食べられるじゃない、という値段のものもありました。まあ、おそばにはおそばの、サーロインステーキにはサーロインステーキの価値ってものがありますが、それでも、ねえ、いくらなんでも、ねえ。

 そんな老舗のおそば屋さんに行くときは、たいがいはお酒を呑みます。つまみに、卵焼きとか板わさとかを頼みます。あと、天抜きとかも。天抜きは、天ぷらそばからおそばを抜いた物で、おいしいです。

 そんなおそば屋さんには、メニューに海苔というのがありますよね。木でできた小さな火鉢に引き出しがついていて、その引き出しを引くと海苔が入っています。つまり、暖かい海苔。これがまた高いんですよね。確かに風情がありますが、でも、海苔でしょ、だたの海苔でしょ、どう見ても海苔じゃいですか、そんな言葉が頭の中でループする私は、江戸っ子には一生なれないんでしょうね。

 江戸前のおそばは好きだけど、なんかその文化にはなじめない。そんな私のいちばんのお気に入りが山形のおそば。

 その中でも、太めに切った田舎そば。冷やし地鶏そばという名物があって、薄口の冷たい出汁に田舎そがばどかんと盛られて、薄切りの地鶏と三つ葉が添えられています。これでもかというそばの香りともにガツガツいくんです。出汁をぜんぶ飲み干して、ああ、うまたっか、そば食ったなあ、満足、満足という感じがとってもいいんです。

 東京で生活するようになって、かれこれ20年ほどになります。結論は、うどんはともかく、おそばはこっちのほうが断然うまい。で、大阪に住む親父にこの味を、ということで、一度こちらで生そばを買って、ゆでて食べさせたことがあるんです。

 「うーん、これ、あんまり好きやないなあ。もっと柔らかいのがええわ。」

 そうかあ、そりゃしゃあないなあ。まあ、味覚は人それぞれ、ということなんでしょうね。では、みなさま、引き続きよい日曜日を。

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2010年10月10日 (日)

ラーメンの話

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 最近は、涼しくなってきて、ようやく、ラーメンでも食べよっかなという気になってきました。とはいいつつ、それほど頻繁に食べているわけではないですが、それでも新しい店ができたら、一度は食べてみる、みたいな感じですから、一応はラーメン好きとは言えるのかなあ。でも、私がラーメン好きだと、世の中のほとんどの人がラーメン好きになってしまいそうですし、当然、小麦のどうのこうの、無化調のどうのこうのはあまり語れませんし。

 ま、そんな普通のラーメン好きのラーメンの話です。

 それにしても、この夏は暑かったから、ラーメン屋さんはしんどかったでしょうね。さずがに、ああも暑いとラーメンはいいやってなりますものねえ。秋冬ものが振るわずで、ユニクロ減益、といったことはニュースになるけれど、ラーメン屋が減益というのはニュースになりにくいので、そのあたりはよくわかりませんが。

 なんの気なしに中野の街を歩いていると、ラーメン屋さんがたくさんオープンしているんですよね。ここ数ヶ月で一気に増えた感じがします。中野は「青葉」の成功もあって、すっかりラーメンの街になってきて、若いラーメン職人さんは中野を目指す、みたいなことになっているのでしょうか。それとも、賃料が下がって、若い人でも借りられるようになったからなのでしょうか。

 隣町の高円寺でもラーメン屋さんが増えた気がします。そのぶん減ったのは、パチンコ屋さん。高円寺は等価交換ではなかったので、いまの状況ではきつかったのかもですね。中野にくらべて高円寺はそのぶん設定や釘が甘い印象がありましたが、もう、こうも景気が悪いと、そんな方針ではやっていけないということなのかな。なくなったのは、独立系ばかりで、そのあたりも時代を反映している気もします。

 ラーメンは、バリエーションがあるから、若者を惹き付けるのでしょうね。よし、一発ラーメンで勝負、みたいなことが成り立つのは、バリエーションがあってこその話。どこかに自分の立ち位置を見つけられそうな気がするし。味噌あり、醤油あり、豚骨あり、魚介あり。家系、二郎系、大勝軒系などなど、流派もいろいろですし。

 これは、ラーメンに限らず、いろいろな業界に言えることでしょうね。バリエーションの豊かさがなくなってきたら、若い人はそこに入りようがないですから。このあいだ、テレビのドキュメンタリーを見ていたら、ある女性が立ち上げた農業ベンチャーに新卒で入社した女の子がこんなことを言っていました。

 「ここなら、商社的なことができるかもしれないから。」

 その女の子は、商社志望で、商社中心に就職活動をしていたそうです。でも、このご時勢、商社は全滅。それよりなにより就職だってままならない。悪戦苦闘の末、縁あって、その農業ベンチャーに入社することになったそうです。商社的なことができるかも、と言う言葉がとても印象的でした。こういう発想の転換、いいですね。とってもいいです。

 中野や高円寺にできたラーメン屋さんの若い店長さんたちにも、そんな発想の転換があったのかもしれないですね。和食やイタリアンをやっていて、ラーメンに転身なんて人も多いんでしょうね。

 ラーメンには夢があるのでしょう。きっと。

 可能性と言い換えてもいいかもしれませんが、まだ誰も手をつけていない領域がそこにありそうな感じがラーメンにはあります。そばにもうどんにも、もうないですよね。でも、ラーメンにはある。ありそうな気がする。ほんとにあるかどうかはわかりませんが、とりあえずは、ありそうな気がするっていうことは大事な気がします。

 これは、どこかIT業界と似ている気がします。今だとモバイルがそんな感じなんでしょうね。GREEには希望がある。モバゲーには希望がある。そんな感じ。実際にあるかどうかはわかりませんが。

 その希望感、ほんと大切ですよね。実体はともかく、希望感がなくなったら終わりですから。希望感は、何がつくるのか、というと、これはもう多様性なんでしょうね。硬直化した中でも、なんとかラーメン的なものを見つけられればなあ、と。

 写真は、ラーメンとはまったく関係のない東京青山の空ですが、青山はどうかというと、ラーメン屋さんはあまり増える気配はありません。そのかわり増えたのは、お弁当屋さん。働く人は、今、節約してて、オフィス街ではラーメンは流行らないのかもですね。

 でも、この流れは、ちょっと希望かもな、なんて思ったりもします。

 中野とか高円寺とか、生活の街で天下穫りを目指す、若いラーメン屋店主たち。いいじゃないですか。私は、そんなふうに思います。みんながみんな、銀座や六本木を目指さなくてもいいんですよね。今、中野のサンロードを入った路地は、とってもおもしろい感じになってます。ラーメンに限らず、立ち飲み屋さんや、居酒屋さんなどなど、独立系のお店がしのぎを削っています。

 みんな、お店の内装は質素な感じでがんばってます。これは、ちょっと希望だなあ。ほんと、希望です。

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2010年9月20日 (月)

月見うどん

 大阪にいたときは、月見うどんがきらいでした。

 どうしてかって言うと、せっかくの澄んだ黄金色の昆布出汁のおつゆがにごってしまうから。おつゆに生卵が完全にまざって乳白色になるんですよねえ。あれがええんやんか、と言う方もいらっしゃると思うんですが、私はあれがちょっと苦手です。

 同じような人がいるからなのか、大阪では、立ち食いではなく、ちゃんとしたうどん屋さんには、けいらんうどんというものがあります。けいらんは、漢字にすると鶏卵。片栗粉でとろみのついたおつゆに、生卵をといたものを入れて、かき玉にしたものです。ものすごく熱くて、お口の中の皮がべろべろになるけど、あれは好き。生姜なんかも入っていて、寒い冬はいいんですよね。でも、月見うどんはどうも駄目。

 なのに、東京では月見そば(東京ではなぜかうどんは頼みません)をよく頼みます。それは、なぜか東京の鰹だしの濃いめのおつゆなら、生卵がまざらないからなんです。なんか理屈はあるんでしょうけど、とにかく関東風のおつゆなら混ざらないんです。不思議。月見天ぷらだと、生卵の黄身のとろっとした部分にかき揚げやそばをからめて食べると、満足感が格段に上がります。

 このあいだ、そのことを忘れていて、新大阪の立ち食いうどん屋さんで月見天ぷらを頼んでしまって、一瞬、あっ、失敗した、と思ったんですが、ていねいに食べると大丈夫なんじゃないか、とゆるゆると黄身をやぶると、みるみるおつゆがにごってしまいました。関西風のおつゆの生卵まざり力、おそるべしです。

 生卵と言えば、子供の頃は、ざるそばを頼むと、かならずうずらの生卵がついてきました。ざるそばって、そういうものだと思ってましたが、東京ではそうでもないんですよね。関西、とくに大阪は、そばに対する扱いがぞんざいですよね。最近では、ざるそばにうずらはつかなくなりましたし、おそばもかなりレベルが上がりました。それは、東京でのお好み焼きやたこ焼きのレベルが上がったのと同じですね。一頃は、東京のお好み焼きやたこ焼きは、ホットケーキみたいでしたものねえ。

 話が横道にそれますが、さきほど、ぞんざいとタイプして、漢字に変換されないなあ、と思って調べてみると、いろいろ謎の多い言葉のようですね。お暇なかたは、こことかここを見るとおもしろいかもです。

 生卵。入れる派、入れない派があるようです。関西で食べる月見うどんは苦手だけど、私は、断然入れる派です。カレーに生卵を入れて、醤油をかけて食べますし、納豆にも生卵を入れます。牛丼にも生卵です。温泉卵ではなんかものたりません。牛丼は、生卵をとかずに落とすのも、よくとかして、黄身と白身が完全にまざったものをかけるのも、どちらも好きです。後者は、すごくまろやかな味になります。

 というか、なんでこんなことを書いているんだろ、とは思わなくはないですが、まあ、ブログだし、休日だしねえ。ブログ、万歳。休日、万歳。

 きっと、昼飯に、卵焼き用のフライパンに、鰹だしにおじゃこと青ネギを入れて、火をかけて、煮たってきたらといた生卵をいれて、ぱしゃぱしゃかき混ぜたものをつくって食べたからですね。卵のぱしゃぱしゃと呼んでます。味醂とかお酒を入れると、もっと旨くはなりますが、そうなると、卵のぱしゃぱしゃではなく別の料理になってしまいます。まあ、勝手に定義して、なってしまいます、もあれですけど。親子丼の具のできそこないみたいな簡単な料理ですけど、けっこうおいしいですよ。

 では、引き続き、よい休日を。

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2010年9月19日 (日)

めしがうまけりゃ、なんとかなるさ。

 ということを、よく思います。

 たとえば、なんか、人の問題とか、お金の問題とか、経営状態の問題やらで、やな感じになっているお得意先の仕事なんかで、でも仕事だからやらなくちゃならなくて、みたいなとき。どうやってモチベーションを高めるかというと、ビジネス本に書いてあるようなことではまったく効かないんですよねえ。そんなもの、人間なんだから、やなもんはやなんです。

 そんなとき、意外に効くのは、めし。

 そのお得意先の近くに昼飯がおいしい食べ物屋さんを見つけるんですね。で、それをたのしみにするんです。だから、打ち合わせは、できる限り、朝一にします。普通は、やな仕事だと、気分的に後まわしになるんですが、昼飯のために、あえて朝一にするんです。

 そうなると、その仕事は案外好転するんですよね、なぜなら、と続くと、ライフハックになるんですが、まあ、現実は、あんまりそうはならないです。そんなにうまいこといくわけがないですよねえ。でも、とにかく、とりあえずは、その仕事がつらくてつらくてしょうがない、ということはなくなります。それだけでも、ずいぶん違います。

 勤め人の方、特に外回りの営業の方は、いろんなところに、とっておきの食べもの屋さんを持っているんでしょうね。私は、制作職なので、営業の方ほどあるわけではないですが、それでも、たくさんの得意先の仕事をやってきましたので、それなりにありますです。本日は、それをご紹介したいと思います。

 あっ、べつにこの近辺の得意先がいやだったってわけではありませんからね。大好きな得意先でも、おいしいお店は探しますので。どっちかというと、食通っぽい感じではなくて、気軽に入れて、そんなに高価じゃなくて、ひとりのときでも、さくっと行ける感じのお店を選んでみました。私は東京で仕事をしているので、東京近辺になります。

田町「ホーカーズ

 東京のカレーでは、ここがいちばん好きかも。私はカレー通ではないでの、本場のインドカレーやタイカレーがどんなものかは知りませんし、それに比べてどうか、ということは言えませんが、ここのココナツミルク入りの赤いカレー、サラサラで真っ赤なのチキンカレーは、ほんとおいしいなあ。なんというか、味がシンプルなんですね。いろいろ混ざりあった、複雑な味ではなく、キリッとしたおいしさ。
 ランチは、2種盛りというのがあるんですが、私はいつもこの組み合わせ。価格も良心的です。でも、お昼は落ち着いて食べる感じではないです。あと、とろっとバターが効いたポークカレーもおいしいです。それと、数量限定のカレー炒飯も人気。食べたい人は、早めにいかないとなくなります。


銀座「山形田

 前は京橋にありましたが、ウェブサイトを見たら、銀座に移転とのことです。また、食べにいかないとなあ。山形そばのお店で、いわゆる太めの田舎そばです。東京のそば屋さんと言えば、さっとくぐって、みたいな粋な感じのお店が多いですが、ここのは、かなり食べごたえがあります。そば食ったなあ、という気になります。
 おすすめは、「蔵王地鶏冷やし蕎麦」のおろし付き。これは、ほんとうまいです。そばも鶏も当然うまいんですが、出汁がいいんです。飲み干せる出汁。東京にあるのおそば屋さんでは、ここの「地鶏冷やし」がいちばん好きかも。
 

日本橋「ますたにラーメン

 京都銀閣寺の「ますたに」からのれんわけしたお店です。ラーメンは、人それぞれ好みがありますが、私は、ラーメンではここがいちばん好みです。九条ネギを多めで、無料のごはん付きでいただきます。銀閣寺の「ますたに」にも行ったことがあるんですが、こっちのほうが洗練されてて好きかなあ。
 

新宿「永坂更科布屋太兵衛

 麻布十番の永坂更科ですが、新宿の地下鉄ビルの「メトロ食堂街」にある支店は、立ち食いコーナーがあるんですよね。気軽で、新宿に寄ったときは、よく利用します。かき揚げが豚天なところも働く人の味方という感じです。かけともりがあります。立ち食いだけど、そば湯があるのがうれしいです。
 じつは、このお店、東京ではじめて食べたそばなんです。大学受験のとき、新宿で降りて、私、方向音痴なので、地下で迷って、そこで立ち食いそば屋さんだ、と思って入ったら、すごくおいしかったんですね。びっくりしました。大阪って、そばを大事にしないんですよね。うどんの代用というか、そんな感じ。まずは、そばの角が立っているのに驚いて、腰というか、プリプリしているのにびっくりして、へんな表現ですが、ラーメンみたい、と思っちゃったんです。
 あとから知ったことですが、普通の立ち食いそばは、まあ、麺は大阪と同じなんですよね。「永坂更科」は特別でした。
 

神田「サモサ

 ナンで食べる本格インドカレー。ということだけなら、たくさんありますが、ここはスタンド式で気軽に食べられるんですね。ガード下の入り口から入ると、券売機があるスタンドで、商店街側から入ると、テーブルでゆっくり食べるレストランになっています。その間にキッチンがあって、インド人のシェフがつくっています。つまり、レストランでゆっくり食べるカレーと味が同じなんです。
 

神保町「スヰートポーヅ」

 ここは有名ですよね。老舗だし、わりと有名なので、説明不要かもしれません。あっさりしているので、ときどき食べます。味噌汁がおいしいです。餃子の皮が筒上に巻かれてあるんですよね。つまり、両端が閉じていないんです。肉汁を楽しむ餃子という料理的にはどうなんだろうと思いますが、ま、それがスヰートポーヅという食べ物なので。資料集めのときに、よく行きます。
 

 とまあ、そんなところですかね。おいしいお店はたくさんありますが、あえて、というとこんな感じになりますね。やっぱり、ひとりでも大丈夫な気軽な感じというのが、私にとっては大切な気がしました。だから、立ち食いとかスタンドとかが多くなりますね。このあたりのお店は、いまだに用がなくても行くことがありますね。

 あと、必ずしも味だけじゃないかもです。今はもうないけど、有楽町のマリオンの近くにあったスタンドカレーとか、六本木のばくだんラーメンとか、絶品というにはちょっと足りない感じでも、帰りにあれ食べていこ、という気になります。仕事ではあまり行かないけど、高円寺の「ニューバーグ」なんかは、その代表格ですね。

 最後に、新大阪駅の「浪花そば」という立ち食いうどん。在来線のコンコースにあります。まあ、これといって特別なうどん屋さんではないですが、帰省やら出張やらで、東京から新大阪に立ち寄るときには、いつも利用します。帰って来たなあ、という気になるんですよね。きざみうどんを頼みます。味のついていない薄あげを刻んだのが入っています。いかにも大阪らしく、昆布だし。新大阪で降りるときにも、在来線に入って、うどん食べてから降ります。おすすめです。

 ほんとね、めしがうまけりゃ、なんとかなるさ、です。振り返ってみると、おいしいたべもの屋さんには、ずいぶん助けられたなあ、と思います。

 では、よい休日を。

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2010年5月 2日 (日)

さよなら八角弁当

 なんかさみしいですね。ゴールデンウィークを前に、大阪の老舗お弁当屋さん「水了軒」が破産。廃業ということになってしまいました。大阪へは夜中に帰って来たので私は見ていませんが、新大阪駅の新幹線乗り場前広場にあった水了軒のお弁当売場は、シャッターが降りたままになっているそうです。

 東京と大阪を行き来するビジネスマンの間では、東の「崎陽軒 シウマイ弁当」、西の「水了軒 八角弁当」として人気がありました。でも、若い人にも人気があったシウマイ弁当に対して、八角弁当は少し年輩の人に好まれていたようです。

 価格も、シウマイ弁当が780円で平均的な駅弁よりも安価なのに対して、八角弁当は1100円。やっぱり、駅弁と言えども1000円を超えると、今の時代、少しきついかもしれません。例えば、980円と1100円は、わずか缶コーヒー1つ分しかかわりませんが、心理的にはやはり大きな差があるでしょうね。それに、新幹線に乗ることが今や特別なことではなくなりましたから。

 八角弁当は、弁当箱が八角形ということ以外、これといった個性がないお弁当でした。こう言うと、なんの取り柄もないお弁当のように聞こえますが、そんなことはまったくなくて、個性がないからこその良さというのが八角弁当にはありました。

 お弁当の中身は、たくさんのおかずが少しずつ。鶏ロース、海老の炊いたもの、焼き魚、なずびの含め煮、筍、そら豆、人参、高野豆腐、蒲鉾、昆布巻き、お豆さん、蒟蒻、椎茸、焼きイカ、穴子の鳴門巻き、ごぼう、お漬物。それに、黒胡麻がパラリとふられ、八つに仕切られた白いごはん。

 これぞという派手なおかずもないし、たこ焼きとか串カツのような大阪名物もなく、個性はまったくないけれど、そのひとつが、ほんと丁寧につくられていて、とてもぜいたくな気分になれるのです。さめてもおいしいというか、さめたときにいちばんおいしくなる、というような味付けで、ある意味では、上方文化の粋が詰まったお弁当でもありました。1100円は高くないと本当に思えました。

 きっと、この八角弁当がつくられた当時は、おせち料理や割烹料理のような華やかさをお弁当に、ということだったのでしょうね。でも、今や列車の旅も当たり前になって、特に東海道新幹線のようなビジネスユースの路線では、その華やかさは時代遅れになってしまったのかもしれません。さみしいですけどね。でも、私も、最近は、ロッテリアのチーズバーガーセットだったりしますし、さみしがってばかりもできないんですけどね。私も、そんな時代に生きる一人の人だったりもします。

 私が八角弁当を知ったのは、東京で仕事をはじめて大阪出張が増えたときでした。重要なプレゼンが終わって、みんなで東京に帰るときに、チームのボスから「今日はお疲れさん。今日はぜいたくしよか。」と八角弁当と缶ビールをごちそうになったんです。

 少量だけど多彩なおかずは、缶ビールのつまみにもちょうどいいんですよね。時代は変わるし、変われば消えるものもある。そんなことはわかってはいるけれど、やっぱり少しさみしくて、どこかの企業が、八角弁当だけでも復活させてくれないかな、という淡い期待もあるにはあるけれど、それでも、なにがなんでも八角弁当を復活させてほしいという気持ちにも、正直言えばなれない自分もいたりもして、とりあえず、ある時代の小さな終焉の記録として、ささやかだけど言葉で残しておこうかな、と思いました。

 さよなら、八角弁当。またどこかで。

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2009年11月12日 (木)

ロングラン

 最近はパチンコはやらないので知らなかったんですが、こんなパチンコ台があるんですね。その名も「CR餃子の王将」。昔の一発台と権利ものをあわせたようなゲーム性のようですね。

 しかしまあ、王将ブーム、続きますね。ロングラン。

 このブログに「餃子の王将がブームらしい」というエントリを書いたのが7月。で、いま11月。まだお店に行列ができてるものなあ。私は大阪育ちなので、「行列かあ。王将なのになあ。」という気持ちがあるんですよねえ。ま、理屈を超えた、ソウルフード的な愛着もあるにはあるけれど、そこまでしてという感じもするんですよね。どっちかというと、それは、愛ゆえにの気持ちかもしれないですけど。なんか、列に並んだら負け、みたいな。何に負けるのかは知りませんが。

 餃子の王将がなるほどなあ、と思うところは、餃子が焼き餃子の1品しかないところ。水餃子とかシソ餃子とかつくらないところかな。つくってもいいかなと思うタイミングは今までにたくさんあったと思うけど、けっして餃子専門店というジャンルにはいかないで、ひたすら大衆中華料理店。そこはすごいなあ。むしろ、麻婆フェアみたいなキャンペーンばっかりやってますよね。案外、ラーメンにも力を入れているし。

 このあたりは、ブームの広がりにうまく作用してますよね。餃子もすごいけど唐揚げの塩こしょうがすごいとか、チャーハンもたまらんとか、餃子のタレの配分はああだこうだとか、結果として焼き餃子をめぐるあれこれという感じで、ブームが拡散していっても、焼き餃子の存在が薄くなることはないんですよね。俺はシソ餃子派の人が出てきたら、そのぶん焼き餃子の存在が薄くなるわけだし、餃子の王将ブームが餃子ブームになっちゃいますし。

 とは言っても、餃子の王将は私が子供の頃からあったし、老舗なので、浮かれてばかりじゃなくて、ブームが終わったあとの次の一手はすでに考えているんでしょうね。関西企業だし。と書いて思ったのは、すでにけっこうな企業なんですよね。なんか自転車で130円の餃子だけを友達と食べにいっていた頃からすると、うわっとなりますね。今や大証1部企業だものなあ。

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2009年10月13日 (火)

そら肉つうたら牛肉やろ

 この前、テレビを見ていたら、大阪ではカレーには牛肉しか使わないというコネタをやっていて、ほんまかいな、と思いました。豚肉も鶏肉も入れてたけどなあ、と見ていると、街の人も、プロのカレー屋さんもみな牛肉。ビーフカレー。もしかして、知らないうちに大阪の食生活が変わったのかな。

 でもまあ、大阪人は牛肉が好きというか、肉と言えば牛肉のことを指すようです。例えば、豚まん。これ、東京でも、たぶん他の地方でも、たいがいは肉まんと言いますよね。でも、大阪では絶対に肉まんとは言いません。餡が豚肉だからです。

 大阪名物、串カツ。これも肉は牛肉。豚肉はほとんど見たことがないし、豚肉の場合は、単なる串に刺した豚カツです。肉じゃが。これも、家庭はともかく、居酒屋さんでは牛肉を使います。豚肉を使ったら、「ちょっと、ちょっと、兄ちゃん、これ肉じゃがちゃうやん。豚じゃがやん。」と言われてしまいます。

 今はどうだかわかりませんが、私が子供の頃、洋食の王様はビフテキでした。ビーフステーキです。このビーフステーキ、大阪ではテキと略したりします。ステーキのテーキの音引きを取って、テキ。こういう略し方は大阪っぽいですね。近所の洋食屋さんには、手書きのこんなコピーが。

 「カツで活力!テキでスタミナ!」

 なんか惜しいコピーですね。カツと活力でかかっているのに、テキでスタミナって。きっと、快適とかテキのつく言葉を考えたけどうまくいかないし、まあいいか、という感じだったんでしょうね。でもまあ、気持ちはものすごくわかります。で、このコピー、かれこれ40年ほどお店のショーケースに貼られ続けていました。つい最近、親父さんが引退して、お店とともにこのコピーもなくなってしまいました。長い間、お疲れさまでした。ごちそうさまでした。美味しかったです。

 牛肉と言えば、私は、肉すいが好き。肉うどんのうどん抜きです。昆布だしに泳ぐ薄切り牛肉と青ネギ。あっさりしてていいんですよね。あれは、いいなあ。なんばグランド花月の近くに有名なお店がありますので、関西の芸人さんも好きな方が多いようです。大阪にお越しの際にはぜひぜひ。って、東京で書いてる私はいったい何者?

 ま、とにかく、おすすめです。

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2009年10月12日 (月)

ウスターソース

 そう言えば、子供の頃は何にでもウスターソースをかけていた気がするけど、このところはめっきりかけなくなりました。ウスターソース、というよりソースとウスターを略して呼んでいましたが、今の子供たちはどうなんでしょう。

 私は関西育ちなので、惣菜屋さんの天ぷらにもソースでしたし、豚まんや焼売はソースと辛し。カレーも目玉焼きもソースでした。銘柄はイカリが多かったです。東京ではブルドックが多くて、びっくりした覚えがあります。ソースとか醤油、味噌は、地域差がありますね。東京ではヒガシマル醤油はあまり見かけないですものね。

 でも今は、天ぷらにソースはかけませんし、カレーも目玉焼きも醤油です。ソースって、ちょっと子供っぽい調味料なのかも。で、ウスターソースをなめてみると、案外深みがあって大人っぽい味で、ちょっと見直さなきゃ、かもなあ、と。

 きっと今は、売れ筋は、ちょっと濃いめのとんかつソースや、もっと濃いお好み焼きソースなんでしょうね。でも、このふたつには、ウスターソースのような複雑な味はしないような気がします。とはいっても安物の舌を持つ私の感覚だから、あてにはなりませんが。

 日本のウスターソースって、本家のイギリスのものとは別物だそうで、私もリーペリンソースというのを買ったことがありますが、味はほんの少し醤油っぽくて、日本のソースにくらべるとパンチがないというか、あっさりしているというか。でも、味の複雑さは本場が上かな、と思いました。なんでも、原材料にアンチョビーを使っているそうです。

 とんかつソースやお好み焼きソースは、ソースをかけて料理が完成という気がするけれど、ウスターソースには、それがない気がします。深く考えると、ウスターソースの必然がある料理は見つけにくいですね。醤油と違って、それ自体がわりと完成された料理っぽい味なので、これはウスターソースでなくちゃ駄目という料理は考えにくいのかも。

 そう言えば、長崎の皿うどんにはソースをかけますよね。あれはなんでだろう。確かに旨いのですが。きっと、ちょっと洋風な感じが、あの土地には好まれた、ということなのでしょうね。ハイカラな感じがしますから。

 あっ、そう言えば、最後にウスターソースで料理が完成、というものをひとつだけ見つけました。大阪の串カツですね。ステンレスの容器にウスターソースがたっぷり入っていて、その中に串カツをくぐらせるやつ。あれは、ウスターソースでなくちゃ駄目ですね。あのソースは、継ぎ足し、継ぎ足しで、ソースを替えないんですよね。いろんな人が串カツをくぐらせるときにしみ出すエキスで、ソースがどんどんおいしくなるそうです。真偽のほどはわかりません。でも、ソース継ぎ足しとか、二度漬け禁止とか、そういう物語はいいですよね。楽しいです。

 ウスターソース的なものって、なんかやりようがあるような。こういう感じのものをなんとかさせるというのが、広告的なコミュニケーションの真骨頂のような気がします。なんとなく、とっても素敵なやり方があるような気が。それは、きっとウスターソースの歴史とかうんちくとかじゃない、何かなんでしょうね。

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