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2009年8月 9日 (日)

 木曜日の夜、仕事が思いがけず早く終わったので、映画「ディア・ドクター」を観に行ってきました。有楽町のシネカノン。鶴瓶さん主演。西川美和さん監督。僻地のお医者さんの話。この映画の広告には、こんな言葉が添えられています。

 その嘘は、罪ですか。

 鶴瓶さん演じる主人公。僻地にただひとりのお医者さん。みんなに親しまれ、頼りにされているお医者さん。でも、彼は嘘をついている。たったひとつの嘘。

 西川監督は、その嘘をめぐる物語の時間を再構成して、その綻びを淡々と描いていきます。まるでドキュメンタリーのように。笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、八千草薫。ひとりひとりが、そのひとつの事件をめぐる本当の当事者であるかのようでした。

 私は大阪で育ちました。私の世代は、鶴瓶さんのラジオを聞いて育った世代で、私のこの映画への期待は、あの鶴瓶さんがどう演じているか、というものでしたが、その期待はいい意味で裏切られました。スクリーンに映っているのは、あの鶴瓶さんではありませんでした。

 ここ数年、母のこともあり、医療に接する機会が多くあります。医療という仕事は、家族の立場から見れば目を背けたくなるようなことも行わなければならない仕事でもあることも、私も父も妹も理解をしました。理解するのには時間がずいぶんかかったけれど。

 その嘘は、罪なのか。罪ではないのか。社会は罪とするでしょう。そうでなければ、この社会は成り立たない。けれども、罪ですか、と問いかけてしまいたくなる部分こそが、医療という仕事の現実を成り立たせてもいる。

 私はつい最近、ある人に、ひとつの嘘をつきました。その人は、がんとたたかっていました。その人は、私にあることを聞いてきました。そのことは、私にとってはいいことで、その人の社会復帰後にとっては、あまりよくないことでした。

 「そんなことあるわけないじゃないですか。」

 嘘をつきました。その嘘が罪なのか、罪じゃないのか。私にはもう、その答えを知るすべもありませんが、有楽町の映画館で、そんなことをずっと考え続けていました。

 緻密な構成と脚本で、まるでその出来事が創作であることを拒絶するかのように進む物語。けれども、その完璧な物語を破綻させるかもしれないと思えるシーンがひとつだけありました。最後のシーン。あの最後のシーンは、蛇足と言う人も中にはいるかもしれないと思います。あのシーンだけは、ファンタジーだから。

 けれども、あのシーンは必要だったのだと思います。少なくとも、西川監督にとっては必要だったということだろうし、映画館で観る私にとっては、なくてはならないシーンであったと思いました。

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